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研究プロジェクト 2016年度

A「女性専門職の過去・現在・未来」

細野はるみ・吉田恵子・平川景子・長沼秀明・岡山礼子・武田政明
 人は、だれでもがその能力と希望に応じて、その選択した職業を通じて、自己実現をはかり社会貢献をする。そのことによって、社会は、安定的に維持され発展の継続がなされる。したがって、職業の選択と遂行の場面において、必要な能力の獲得と自由な選択意思および円滑な遂行を阻害する要因となるものの分析は、きわめて重要である。このことは、現在でも数々の点で克服できていない女性の職業選択の自由および職業継続・遂行の阻害要因を根源的なところから除去する解決手段を考える際にも同様である。
 本研究は、かつては、女性が選択することができなかった、いわゆる女性専門職に注目し、女性がその専門職に就くために克服していった過程を、それぞれの時代ごとに、政治、経済、文化的背景等を十分に踏まえて総合的に研究する。本研究は、それぞれの阻害要因を多面的に解明することにより、歴史的研究にとどまることなく、成果が現在に直接生かされる研究となることを目指す。
 具体的な女性専門職としては、かつては就くことが認められていず高度な専門性と社会的有用性を有するという観点から、医療職としての医師と看護師、法曹職としての弁護士を取り上げ、異なる2つの領域の女性専門職を同様に対比させて研究することにより、異なる点等も明確にすることにより、深みと厚みを加えた総合的研究をする。

B「メディアにおける男性身体・女性身体のセクシュアル化」

田中洋美・石田沙織
 ジェンダーとメディア研究では、1990年代以降、女性身体の性的モノ化の傾向が一層強まっていること、また女性身体のみならず男性身体もが性的なまなざしの対象とされるようになっていることが指摘されている。また2000年代以降は、こうしたメディア表象におけるセクシュアル化には、若い女性を中心に自己セクシュアル化の傾向が強まっていることも指摘されている。本研究プロジェクトでは、日本においても同様の傾向が観察されることを踏まえ、それを学術的に捉え、議論すべく、日本のメディアにおける身体表象のジェンダー分析を行う。
 分析にあたっては、ジェンダーとメディア研究の鍵概念のひとつである「セクシュアル化」(sexualization)に関する先行研究を参照し、その知見を踏まえて日本のメディアにおける男女の身体表象の特徴を実証的に把握することを試みる。特に日本ではまだ議論されていない男性身体のセクシュアル化と女性身体の自己セクシュアル化の二つを軸に考察したいと考えている。これらの作業を通して、ジェンダー表象に関する学術的な議論に新しい知見を加え、貢献することを目指す。
 なお分析データは、1991年に先駆的に男性ヌード特集を行ったことで知られる女性誌『an・an』の創刊号(1970年)から2015年末までに刊行された全ての号の表紙である。過去45年間のデータを網羅的に分析し、時代的推移と近年の動向を検討する。

C「組織におけるダイバーシティー推進とその課題」

牛尾奈緒美
 組織におけるダイバーシティー推進は、組織の競争優位の確立や、利益拡大、組織全体の活性化や有効性を高めるなど、多くの意義があることが確認されている。しかし、同質的な組織価値観のもとで長年運営されてきた組織にとって、ダイバーシティー推進は容易ではない。推進の過程で生じる各種の組織的問題点や、成員間のコンフリクトなど、さまざまな課題について検討し、解決策を模索する。ダイバーシティーの具体例としては、女性、障害者といった伝統的組織における少数派と目される人々を対象とし、分析していきたい。

D「戦後の女性誌がライフスタイルに及ぼした影響」

江下雅之・川端有子
 日本の女性向け雑誌、とりわけ主婦向けの総合誌と少女向けの娯楽誌は大正時代に部数を急拡大させた。この傾向は第二次大戦によって中断させられたが、戦後まもなく多くの女性向け雑誌が復刊あるいは創刊された。とりわけ戦後の洋裁ブームのなかで、服飾関係の雑誌の登場や、既刊誌におけるモード関係の記事の拡充が顕著であった。
 1970年以降は、ファッション誌が女性誌のなかで急成長を遂げる。かつて若い独身女性「おしゃれ」は不良の行動と見なされた時期もあったが、戦後世代の台頭により、おしゃれは徐々に若者のライフスタイルの重要な要素となってきた。この時点でおしゃれの情報源であり教科書役を担った媒体が雑誌である。逆に、雑誌は読者の嗜好や動向を探って誌面をつくっていた。両者は若者のライフスタイル形成において相互作用的な関係を維持していたのである。
 本プロジェクトにおいては、こうした相互作用的な関係を系統的かつ実証的に分析することを目指す。先行研究によれば、戦後ユースサブカルチャーは映画や雑誌の影響を強く受けていること、そして80年代以降は通年的な「若者文化」が成立しえず、徐々にユースサブカルチャーズが並立し、それに沿って雑誌の多様化が進んでいる。本研究においては、とりわけユースサブカルチャーズの並立過程に注目するとともに、ある世代集団が年齢を上昇させるにつれて確立するライフスタイルの変化にも着目し、いわば横方向と縦方向の系統において、いかなる雑誌がいかなるタイミングでいかなるサブカルチャーズと親和的であったのかを検証する。そのために、主要な雑誌の主要な年自分を収集し、コンテンツの整理と体系化を進めるものである。

E「現代フランスと日本のメディア言説によって構築された規範としてのカップル像の自己/相互表象」

高馬京子 アメリ・コーベル(CORBEL, Amelie)
 本研究は、現代フランスと日本のメディア言説を通して、いかに規範となる「カップル」像を自己/相互形成されてきたか、比較考察するものである。 
 日本では、「フランス婚」(事実婚の意『実用日本語表現辞典』)といった言葉で語られるほど、日本と異なるフランスの特異性として、サルトル・ボーヴォワールの関係で知られるよう法制度ではなく、女性の自立に基づいた非婚関係の恋愛を重んじる事実婚といったカップルが多いというイメージが抱かれている。しかし、フランスでは、日本と異なり、カップルを結ぶ法的な形式として「結婚」だけではなく、「パックス(民事連帯契約法 )」(1999年)、「みんなのための結婚(同性婚)」(2013年)といった、様々な「選択肢」が提示されているにも関わらず、2015年12月に発表されたL'INSEE(フランス国立統計経済研究所)によると、フランスのカップルが選んだカップルの形態は結婚が最多で73%、ユニオン・リーブル(事実婚)23%、パックスは4%、また、日本の国税庁のデーターと合わせ見ると、フランスでは離婚も多いといわれながらも絶対数で比較すると日本の約2分の1という現実もあり、ある種イメージと現実のギャップが感じられる。
 本研究では、実際、このようなギャップの間で構築されたフランスの「カップル」像の役割について考察するために、日仏メディアにおいて、
① 「規範」となるフランスの「カップル」像がいかに言説によって形成されてきたか、
② その「規範」は日仏社会にとっていかに必要とされたのか
③ それらを形成し、正当化するそれぞれの社会構造/言説編成体とはなにか
を明らかにするために、伝統的な媒体である新聞、雑誌、及びデジタル・メディア、また、外国人向け語学教材といった社会「規範」を国内外向けに形成・発信する役割をもつ日仏の様々なメディアにおける「結婚」「離婚」「恋愛」「家族」等に関する記事を資料体とし、日本の「カップル」像との比較も射程にいれつつ、そこで形成される規範としての日仏のカップル像の自己/相互表象を言説分析を通して考察する。