経営学部

フィールドスタディC(米国・シアトル:大石先生)実施報告

2015年10月20日
明治大学 経営学部

 昨年度(2014年度)は同じ米国ながら,在シリコンバレー企業の経営戦略をテーマにフィールドスタディを実施した。「米国企業はなぜイノベーティブなのか?」,「とりわけ在シリコンバレー企業はなぜクリエイティブなのか?」を探る調査であった。そこではインテル,グーグル,ヒューレット・パッカード,LG,サトメトリックス,東芝などを訪問した。今年度(2015年度)は同じ米国の在シアトル企業の経営戦略をグローバル・マーケティングの視点より探ることにした。
 シアトルはシリコンバレーと並び,米国西海岸の極めてイノベーティブな都市である。そこには,マイクロソフト,スターバックス,コストコ,ボーイング,アマゾン・ドット・コムなどの錚々たる企業が存在している。今回,アマゾン・ドット・コムは訪問できなかったが,マイクロソフト,スターバックス,コストコ,ボーイングの米国企業4社とニチレイフーズとパナソニックの日本企業2社を訪問した。もっとも,日本企業2社も実際はローカルに根を下ろした「InnovAsian Cuisine」と「Panasonic Avionics」について調査しており,極めてイノベーティブな企業であった。
 マイクロソフトは,ご承知の通り,ソフトウェアの巨人。広大な敷地に130以上の棟があり,我々が見ることができたのはほんの一部であった。説明内容の中心はマイクロソフトのBtoB戦略について。マイクロソフトといえばWindows 10などのオペレーション・システムやOfficeなどのアプリケーション・ソフトウェアが有名であるが,現在はクラウドにシフトしており,BtoBがこれからの生きる道だということであった。
 スターバックスは,会社そのものが「スタバ」。建物もスタバ色ならば,内部もスタバそのもの。つまり店舗の中で本社社員は働いているようなもの。スターバックスの理念とかコンセプトとか,口で言ったり社是として額に飾っていたりするのではなく,日常働くことでそれが社員に浸透していくスタイルであった。この点はグーグルなど他の企業にも当てはまる。
 コストコは,別な意味で自らの競争優位をよく認識し,それに沿った本社を運営していると感じた。つまり,広告も一切せず,対売上高販管費比率も10%という超低コストな経営を徹底しているが,本社もそれをよく体現している質素なものであった。「(広告や本社などに)無駄な金を使うくらいなら,その分販売する商品の価格を下げる」というのがコストコ流である。
 ボーイングの工場は,逆にその巨大さに圧倒された。飛行機という巨大な商品を作っているので,その工場も敷地も巨大にならざるを得ないが,そのスケールの大きさは日本ではちょっと考えられない。実際,ボーイングはシアトル(近郊)で最大の工場敷地面積を誇るし,1つの工場建屋にディズニーランドがすっぽり収まるという。
 ニチレイフーズの子会社である「InnovAsian Cuisine」は,その名の通り,イノベーティブなアジアン・フードを製造販売している。健康志向の強いシアトル住人にヘルシーなアジアン・フードは人気であるが,同社は総菜やパッケージ商品を次から次へ開発し,順調に業績を伸ばしている。現在,アジアン・フードは売上高で全米2位を誇る。
 「Panasonic Avionics」は飛行機の中の電装品を製造販売している会社である。より分かりやすく言えば,客席から見えるディスプレーやその中で流れるコンテンツを提供している会社である。この分野では世界トップのシェアを誇る。振動・衝撃・高温・超低温など厳しい環境で稼働する飛行機であるが,そこで安定的なパフォーマンスを上げるには高度な技術が必要である。
 これらの企業がなぜこのようにイノベーティブなのか?共通してみられる,いくつかの特徴があった。
 第1に,意思決定が速い。「アジリティ(迅速さ)」というのは彼らの標語であり,競争力である。そのための職務区分が明確で,与えられた職務の中では責任を持って実行し,結果を出せば報酬で報いられ,結果が出なければその責任を問われる。
 第2に,ダイバーシティ(多様性)が著しい。いろいろな国籍の人が,老若男女に関係なく一緒に働いている。背景となる文化も異なれば,生まれ育った環境も異なる。このように多様な人々が喧々諤諤意見を戦わせながら経営・マーケティングを行っている。
 第3に,グローバル志向が徹底している。「InnovAsian Cuisine」を除き,かれらは全て国内だけ見ているわけではない。常にグローバルを意識しながらビジネスをしている。ダイバーシティが徹底しているから,グローバル志向にも違和感がない。
 第4に,「良い商品を作れば儲かる」なんて単純に考えていない。「良い商品」はビジネスの基本中の基本だが,それだけで顧客を取り込むことはできない。共通しているのは,マーケティングやブランドの重要性を強く認識し,実践していることである。
 他にもいろいろな特徴があるが,日本企業が学ぶべき点も多い。米国でも,東南アジアにおいてと同様,日本に対する評価は高い。好かれてもいる。でも,米国では経営において「日本企業から見習うベキ点が多い」とは思われていない。残念ながら,かれらから見れば,日本企業は鈍重で,多様性に欠け,国内志向で,「良い商品を作れば儲かる」と未だに考えている,古い体質の企業である。私も学生も,今回のフィールドスタディを通じて,そのような強い反省の念を持った。

専任教授  大石 芳裕