経営学部

フィールドスタディD(愛知・滋賀・京都:藤江先生)実施報告

2020年06月16日
明治大学 経営学部事務室

テーマ  :「地域企業・産業調査」
実習期間:2019年12月4日~6日
実習先 :愛知県、滋賀県、京都府企業

目的(実習のねらい):
 本実習(「地域企業・産業調査」)では,地方産業都市を訪問し,地域に根差しながら、市場の開拓に積極的に取り組んできた「地域中核企業」や地域の伝統を活かした独自の理念や戦略をもつ企業を訪問し、経営トップ・幹部クラスの方々の講義、併せて事前に送付している学生の質問を基に質疑応答を行い、さらに工場見学を行った。実習の目的は、訪問企業の歴史や現状、課題を知り、その展望について考えるヒントを得ることであり、「ものづくりの心」を感じ,それを具体化する力の必要性を知ることである。

実習報告:
今回は3社すなわち、①愛知陸運(株)、②(株)ダイフク、③(株)川島織物セルコンを訪問した。何れも、歴史のある地域に根差した地域中核企業である。
以下では、その沿革・歴史、現状、学生の御礼・感想を紹介する。

<沿革・歴史(各社HPより)>
 今回の訪問企業の一つである、愛知陸運(株)は、1942年創業の自動車部品輸送事業、貸切(車扱)運送事業、航空貨物関連事業、物流提案事業、人材派遣業務、倉庫業、荷役業、加工組付け業を行う企業で、売上は332億円(2018年度)、トヨタの「ジャストインタイム」輸送を支えてきた運送企業であるが、トヨタの最終組立工場に部品を納品する、まさに要の企業と言える。この企業の訪問は、下記のような学生の問題意識に具体的に応えるものとなった。
 
同社のHPには渡地達の訪問が下記のように紹介された。この場を借りて関係者の皆様方に感謝する次第である。
令和元年12月4日(水)東京より、明治大学経営学部3年生19名様が、豊田物流センターの見学にお越し頂きました。当日は、物流の仕組みをはじめ、当社概要、乗務員教育について、また、構内の作業現場を見学頂き多くの事を学んで頂きました。

愛知陸運(株)の沿革は以下の通りである。
陸運統制令(1940年)が出される戦時混乱期、経営健全化のために名古屋で9つの貨物自動車業組合が結成され、その中のひとつ千種組合に、共同荷主を持つ業者が結束し、1940年(昭和15年)に愛知陸運の前身である「名古屋トラック操車株式会社」が設立されました。1941年(昭和16年) 真珠湾攻撃の翌々日、「愛知陸運株式会社」と改称。翌1942年(昭和17年)、愛知陸運株式会社を存続会社として、「愛知運輸有限会社」、「小西組運輸株式会社」、「御器所トラック合同有限会社」の4社が合併し誕生しました。

 戦前、名古屋貨物自動車業組合の一組織である「千種組合」では、共同荷主を持つ業者が結束して「名古屋トラック操車組合」を結成。1940年に株式会社となりました。同社は戦時体制が強まる中、事業基盤の強化と経営合理化のため、真珠湾攻撃の2日後に同業3社と合併して「愛知陸運株式会社」を設立。しかし当時は弾薬などの軍需物資や食料品などの輸送が最優先で、一般の貨物を運ぶトラックを動かすには国の運送指示票が必要とされた。加えて、トラックの燃料を手に入れるのも一苦労。1944年末に名古屋への空襲が始まり、翌春には愛知陸運の本社が焼失。わずかに残った車両も戦時下の「防衛隊」に供出したため、運輸事業は困難をきわめた。

 終戦後、「復興は輸送から」というスローガンを掲げ、壊れた車両の大修理、修理工場・車庫・倉庫の再建、営業所・荷扱所の設置を推進。戦後日本の復興を支える原動力の一つとなった。1947年以降は代理店・出張所を積極的に展開。わずか3年間で東京~名古屋~大阪を結ぶ長距離ネットワークと、それを基盤とするきめ細かいローカルネットワークを構築した。加えて、他社がやっていないユニークな事業にも取り組みました。大型ディーゼルトラックの導入や、自動車メーカーと直で締結したトラックのリース契約、運行ダイヤグラムの導入など、後に業界で「当たり前」となった多くの仕組みをいち早く導入したのも愛知陸運でした。

 日本経済が朝鮮戦争後の苦境にあえぐ中、当社は次々と新機軸のサービスを展開。1955年、従来は翌々日配達が常識だった東京⇔大阪便に、翌日配達の「愛陸弾丸便」を投入。高度経済成長とあいまって、当社は急成長を果たした。その後、運輸省の改善指導や労使の協調路線、アメリカ流の高速大量輸送ノウハウの導入などで弾丸便は消滅したが、「他社がやらないサービスを行う」という伝統はその後も健在であった。1963年に高速道路網の整備が始まると、いち早く高速道路による輸送に着手し、1969年には東京・大阪間の高速道路直行便を投入。他にもコンピュータの導入、人事制度の確立など、当社が企業として着実に力をつけていった時期でした。

 日本経済が高度経済成長から安定成長へとシフトする中、当社はトヨタグループの一員に。以前から取り組んできたダイヤグラム運行のノウハウを活かし、必要な時に必要なものを納める「ジャストインタイム」輸送を開始。同時に、住宅資材の輸送などの新業態も始まりました。また取引先の生産から販売までをトータルにとらえ、合理的な物流を提案するコンサルタントが始まったのもこの頃でした。そして1986年に航空貨物の取扱いが始まり、自動車部品・一般貨物・エアカーゴという3本柱が確立しました。その後は物流の自由化によって運輸業界はさらに競争が激化するが、当社は安全と品質を基本に業務の効率化を図り、強固な経営基盤を確立した。

 バブル崩壊後の長引く景気低迷とデフレ、阪神淡路大震災は、日本の産業界に大きな陰を落としました。また規制緩和による競争の激化、環境問題への関心の高まりなど、輸送業界は強い逆風の中にあり、全国で人員削減の嵐が吹き荒れたが、当社はリストラや整理解雇は一切行わず、全員で一丸となってピンチを乗り越えてきた。1999年には「チャレンジ21 アクションプログラム」を策定し、抜本的な構造改革を実施。その後もリーマンショックや東日本大震災などで日本の経済はなかなか復調しなかったが、当社は挑戦の手を緩めることなく、新規事業への積極的な参入や、環境に優しい物流への取り組みなどを進めてきた。

 2012年には創立70周年を機に「安全と品質のアイリク」ブランド構築に向け、新たな挑戦をスタート。本社機能の豊田物流センター集約や、東北・関東における新たな物流コア拠点の開設などを通して、全国42の物流ネットワークを構築。お客様の多様なニーズにお応えすると同時に、100周年に向けてチャレンジし続けています。
 (同社 HPより、引用者一部加筆)
 
<学生の問題意識・質問>
1.会社全体について
①物流業界の抱える課題として、「小口配送増加」や「人口減少などによる人出不足」等についてよく耳にするのですが、愛知陸運様のこの様な業界全体としての課題への対処方法について。
②トヨタ自動車の関連企業ですが、トヨタの名前が社名にありません。「愛知陸運」という名前にある想いについて。
③非上場である理由について。
④トヨタグループとしての強みと弱みについて。
2.輸送サービスについて
 ①荷物を運ぶ量が増えている中での従業員の確保について。
 ②販路を広げるために取り組んでいることについて。
3.倉庫・物流加工につきまして
 ①トヨタの生産システム(「かんばん方式」)を実際に支えるキーステーションとしての御社の独自の分担と役割について。
 
<学生の御礼・感想>
 「先日はお忙しい中、私共藤江ゼミナールにお時間を割いていただきまして誠にありがとうございました。 訪問させていただいて感じたこととして、機械化が進む世の中で、機械の力ではなく、人 間の力で工夫して業務を行っている点にとても感動いたしました。機械化することは当たり前のように思っていたのですが、人間の力の偉大さや機械では超えられない部分に気づくことができました。 今回の企業訪問で学んだことを今後の研究活動に生かしていく所存です。 末筆ではございますが、貴社の益々のご発展をお祈り申し上げます。」(S.U.)

「物流業界の現状について理解を深められました。特に効率化について、またトヨタ生産方式に沿うわかりやすいマニュアルの作成することに深い印象を刻み込みました。そこから日本物流業界の実力を身をもって感じたと思います。強い意志そして情熱を持っている人材になるために一歩ずつ確実に頑張ります。
「今回、初めて物流業界の企業様に訪問させていただき、日本のモノづくりを次に繋ぐ重要な役割を担われていることを実感いたしました。「効率化」をキーワードにし、その為には全てを AI 化すれば良いとは限らず、人の目で確認して人の手で行う作業が良い場合もあり、 導入する前に考える必要があるというお話を聞き、今後忘れてはならない大切な観点を学 ばせていただきました。 今回学ばせて頂いたことを今後の論文などのゼミナール活動に活かして参る所存です。」(Y.S.)

「物流に関して効率化、無駄の排除を無くす様、徹底していらっしゃる仕組みの基盤が、大変印象的でした。単純にモノを運搬することが物流ではなく、その過程の倉庫保管、運搬ス ピードが重要になってくるということが分かりました。現場を拝見させて頂いた際、目に見 えるアナログの部分の大切さについて仰っており、ヒトが関わる仕事においては、無くては ならないものであるということが、印象深い内容でした。今回、御社の方々から頂いた貴重なお話、物流業界を牽引する御社から勉強させて頂いたことを今後の企業研究に活かして参ります。」(M.S.)

「最も印象に残っていることは IT などのデジタルと人間のアナログの部分を融合させた倉庫のシステムでした。貴社のご説明にもありましたように、大企業ではないながらも中堅企 業として発展させていくための知恵なのだと肌で感じました。 また、貴社を語る上で 3PL が非常に重要な意味を持つということを学びました。トヨタ と提携を結びつつ、愛知陸運としての誇りを持ちながら事業を行うという雰囲気が伝わり 学びになりました。」(S.T.)

「システムを使わずに見える化を図る貴社の工夫を拝見し、ヒトの目が一番信頼できることを感じました。改善活動の持続を通して、更なる効率化を目指す姿勢に感銘を受けました。」(R.T.)

「物流業界は初めて訪問させていただきましたが、岡本様のお話の中に新しい発見や気付きが多くあり、勉強させていただくことばかりでした。貴重なお話しをありがとうございます。 また、マニュアルに納得せず、常に効率的に出来るよう、考えている姿勢に感銘を受けました。」(A.N.)

「岡本様の工場見学の際のお話の中で、全てをデジタル化すればいいわけではなく、どちらの方が効率が良いかを見極め、あくまで目的を達成する手段としてデジタル化を利用すればいいというお考えに深く感動致しました。手段と目的というのは私たちが生活して何かの目標に向けて努力している時に、気付かないうちに履き違えてしまう部分であるように思っているので、この部分を意識しながら 目標の達成に向けて進めるようになりたいと感じております。」(Y.N.)

「トヨタグループの一員という側面をもちながら、地域を支える一企業としての側面も拝見することができとても企業としての魅力を感じました。 時代に流されることなく、「変わらない理由」を明確にされている点がとても印象的でした。訪問するまではかなりドライバーの方などを中心に職人気質中心と思っていましたが、 サラリーマン化や付加価値の付け方などかなり運送・物流業界のイメージが変わりました。」(S.N.)

②(株)ダイフク
(株)ダイフクについては、下記を参照されたい。
https://commonsi.muc.meiji.jp/em/5ee4e3ffebbc7

③(株)川島織物セルコン
 (株)川島織物セルコンについては、下記を参照されたい。
 https://commonsi.muc.meiji.jp/em/5ee4e5ca3980a

成果:
 実習の目的は、訪問企業の歴史や現状、課題を知り、その展望について考えるヒントを得ることであり、「ものづくりの心」を感じ,それを具体化する力の必要性を知ることであったが、今回の3社の訪問(説明と見学、質疑応答等)により、それぞれの産業が日本のモノづくりを支え、また、新たな領域を開拓しつつあることを知ることができ、本授業の〈到達目標〉をほぼ達成できたと考える。


藤江昌嗣 専任教授