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ジェンダーセンター

シンポジウム『科学の世界をフェミニズムがひらく?—フェミニズム科学論の可能性と課題—』開催報告

2024年02月21日
明治大学 情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター

2024年1月18日(木)開催
シンポジウム『科学の世界をフェミニズムがひらく?—フェミニズム科学論の可能性と課題—』

【登壇者】
飯田麻結氏(東京大学教養学部教養教育高度化機構D&I部門特任講師)
論文に「フェミニズムと科学技術 理論的背景とその展望」(『思想』2020年3月)、「感情/情動のポリティクス」(『現代思想』2020年3月)など。訳書にサラ・アーメッド著『フェミニスト・キルジョイ—フェミニズムを生きるということ』(人文書院、2022 年)。

鈴木和歌奈氏(大阪大学人間科学研究科講師、アムステルダム大学客員研究員)
専門は、科学技術の人類学、科学技術論(Science and Technology Studies)。最近は科学技術に加えて、環境問題にも関心を広げている。論文に「フラクタルな巻き込みーウルシと人間の間に生じる『重要な他者性』」(文化人類学88巻第2号),"Ecological Trap: Capturing the Potentiality of iPS Cells in Japan" Social Analysis 66(2) など。

竹﨑一真氏(明治大学情報コミュニケーション学部特任講師)
専門はスポーツ社会学、カルチュラル・スタディーズ。現在は、スポーツ科学におけるジェンダー問題に関心を持っている。近著に『ゆさぶるカルチュラル・スタディーズ』(北樹出版、2023)、編著に『ポストヒューマン・スタディーズへの招待』(堀之内出版、2022)など。

【指定討論者】渡部麻衣子氏(自治医科大学医学部専任講師、ウプサラ大学客員研究員)
【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【日時】2024年1月18日(木)18:00~20:00
【会場】オンライン(zoomミーティング)
【企画・コーディネーター】竹﨑一真
【視聴者数】35名

【報告】竹﨑 一真

 科学をフェミニズム視点から考える「フェミニズム科学論」は、科学技術の発展が加速的に進む現代社会において極めて重要になっている。しかしながら「フェミニズム科学論」は、日本の文脈では、一般はもとより高等教育でもあまり知られていない。そればかりか、学術分野でもその広がりは十分ではない。そこで本セミナーでは、科学に対するフェミニズムの視点がなぜ、そしてどのように現代社会において重要なのかを、哲学、人類学、社会学の三つの分野から議論し、「フェミニズム科学論」の可能性と課題を広く示すことが目指された。
 飯田麻結氏からは、「科学の世界をフェミニズムがひらく!」というタイトルで報告が行われた。飯田氏は、「フェミニズム科学論」という研究分野の存在は、「そもそも『フェミニズム』と『科学』が無関係なものとして捉えられてしまっている」ことを肯定しているという重要な問いを投げかけた。また、現在の加速する科学技術の発展“ゆえに”必要とされている現状に対しても疑問を投げかけ、「過去は単にはじめから『そこ』にあるわけではなく、未来も単に展開していく物事というわけではない——『過去』と『未来』は反復的に働きかけられ、現在進行形の空間-時間-物質のもつれ合いという反復的な実践を通じて包摂されている」というカレン・バラッドの言葉を引きつつ、「フェミニズム科学論」自体がいまになって求められているのではなく、歴史的な文脈から常に考えられてきたことであることを指摘した。
 鈴木和歌奈氏からは、「細胞のケア:実験室でのフィールドワークから」というタイトルで報告が行われた。初期のころのフェミニズム科学論は、主に科学における男性中心主義、あるいは西洋中心主義に対する批判的アプローチを提供し、科学における女性の排除や白人以外の人種ないし西洋以外の民族の排除の問題について取り組んできた。ところが、近年のポストモダンやポストヒューマンの思想に感化されたフェミニズム科学論は、「人間」以外の排除の問題にも取り組むようになった。鈴木氏は、そのような視点から「人間」以外が科学の世界においてどのような存在として認識され、扱われるのかに注目することで、実験室での「人間」以外のものに対するケアが科学システムにおける重要な実践となっていることを示した。
 竹﨑一真は、「フェミニズム・スポーツ科学論の可能性—女性アスリートの月経管理技術を事例に—」というタイトルで報告を行った。スポーツに関する科学技術の向上は、近年目覚ましいものがある。なかでも、女性アスリートの月経にフォーカスしたテクノロジーは、女性アスリートの健康リスクを軽減し、ハイパフォーマンスを導くものとして期待されている。しかしその一方で、その技術にはプライバシーの問題や生権力の問題が内在している。こうした事例から竹﨑は、フェミニズムの視点からスポーツ科学を考える視点(=フェミニズム・スポーツ科学論)の可能性と重要性を示唆した。
 最後にディスカッサントの渡部麻衣子氏には、三つの発表の主旨を簡単にまとめてもらい、それぞれの発表に対する疑問点を投げかけ、発表者がそれに応答する形で本シンポジウムが終了した。
 以上のように本シンポジウムでは、日本国内においてまだあまり注目されていない「フェミニズム科学論」を哲学、人類学、社会学という幅広い社会科学の視点から取り上げることで、「フェミニズム科学論」の重要性と可能性を議論することができた。フェミニズム科学論は、現代の加速的な科学技術の進展によってその重要性は増しつつあるものの、しかしその視座は決して今日的なものとして留まるものではなく、人間と科学の長い歴史の中で絶えず問わなければならないものであり、常にすでにフェミニズムが科学をひらく重要な視点になっている(きた)ことが示された。

(左上から時計回りに)ディスカッションする飯田氏、鈴木氏、渡部氏、竹﨑氏(左上から時計回りに)ディスカッションする飯田氏、鈴木氏、渡部氏、竹﨑氏

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