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2015年度 国際シンポジウム

明治大学国際シンポジウム

Meiji University International Symposium: Gender Equality and Diversity in the Research Environment

概要

Meiji University International Symposium: Gender Equality and Diversity in the Research Environment
(明治大学国際シンポジウム「学術分野の男女共同参画と多様性」)

Meiji University, Japan(開催地:日本・明治大学)
November 6-7, 2015(開催日:2015年11月6日~7日)

プログラム

【共催】明治大学男女共同参画推進センター女性研究者研究活動支援事業推進本部
    明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
    明治大学法科大学院ジェンダー法センター
【後援】明治大学専任教授連合会
【会場】明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント

【日程とプログラム】
11月6日(金) 開会式・全体会
○開会宣言・趣旨説明・ロゴマークの発表
○基調講演

11月7日(土) 分科会 
<第1分科会>情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター主催・推進本部共催
Aセッション 座談会「21世紀を研究者として生きる——女性のアカデミック・キャリアにおける機会と障壁」
(Panel Discussion“Living as a Researcher in the Twenty-First Century: Opportunities and Obstacles to Women’s Academic Career”)
Bセッション 口頭発表「タイにおける女性のエンパワーメント——社会的・経済的・文化的状況」
(Presentation“Women's Empowerment: Social, Economic and Cultural Aspects in Thailand”)
<第2分科会> 法科大学院ジェンダー法センター主催・推進本部共催
後援:日本弁護士連合会、日本女性法律家協会、ジェンダー法学会
「女性研究者・法曹養成と男女共同参画政策」
(Promoting Female Researchers and Lawyers through Gender Equality Policies)

報告

開会式・全体会:細野はるみ(情報コミュニケーション学部教授)



初日の全体会・開会式では、主催者側、来賓、海外ゲスト等の挨拶、2つの基調講演などが行われた。

開会宣言・趣旨説明  法科大学院教授 辻村みよ子
開会挨拶       国際交流担当副学長 勝悦子
来賓挨拶       内閣府男女共同参画局長 武川恵子
海外ゲスト挨拶    シーナカリンウィロート大学准教授 
           チョンプヌッ・パームプーンウィワット
基調講演1  日本大学薬学部薬学研究所上席研究員 大坪久子
基調講演2  東京大学社会科学研究所准教授 ジャッキー・スティール
 基調講演1人目の大坪久子氏からは、「理系分野における男女共同参画・女性研究者支援について」と題しての講演があった。その中で、国は科学技術基本計画実現のため科学技術基本法を策定して女性研究者の支援を図ってきたが、1996年(平成8年)の第1期から5年ごとに重点課題の位置づけや数値目標などを見直し、各地の大学や研究機関でもそれを導入した成果が上がってきていることなどが紹介され、特に男女共同参画の困難な理系の分野でも意識改革は確実に進んでいることとともに、さらに今後の課題と展望が示された。今後も子育て支援策の充実やポジティブ・アクションなどの実施でまずは女性研究者の基数を増やすことが重要である点が強調された。
 2人目のジャッキー・スティール氏は「学術分野の男女共同参画政策の世界的動向:Gender Equality and Diversity Policies within Research and Academia: Global Trends」と題して、主として政治や経済活動など社会的な場面における女性の社会参画、意思決定過程への参加の様態について語った。特に、政治分野や企業、学術場面での意思決定にかかわる責任ある立場の女性の少ないことが日本においては問題であることについて、国際比較の観点から述べられた。近代の法体系の出発時点では男性優位社会であったことは否めないが、今後、すべての分野において女性が輝くためには男性の何が変わるべきであるのかに焦点を当てるべきであるとした。

 ジェンダーセンターの2015年度の最も大きなイベントの一つがこの国際シンポジウムであった。「大きな」というのは、ジェンダーセンター単独の行事ではなく、多くの部署や組織が関与して協力し合って一つのシンポジウムを企画・実行した、という意味ででもある。
 とはいえ、今回のシンポジウムの母体となっているのは、この数年来、本ジェンダーセンターが研究交流を続けてきているタイのシーナカリンウィロート大学との連携事業「ジェンダーフォーラム」であった。第1回目がインド・ヒマラヤのクマウン大学、第2回目がシーナカリンウィロート大学で、第3回目は明治大学が担当する、というのはかねてからの合意事項であった。しかし、明治大学は大学全体としては大規模であるが、ジェンダーセンターは比較的小規模な新学部である情報コミュニケーション学部内の組織であり、そこで国際学会を開催することは人的にも経費的にも困難であろうとは当初から予想された。時あたかも明治大学として「女性研究者研究活動支援事業」が発足して男女共同参画推進事業が進んだ時期と重なり、法科大学院の辻村みよ子教授のご協力を仰ぐことで、大学内諸機関の連携協力の下に進めることができた。上記の事業は主として科学技術分野の女性研究者を支援することに主眼があるが、そこに法科大学院、また情報コミュニケーション学部ジェンダーセンターも加わっての合同国際シンポジウムで、ある意味、内包した分野がシンポジウムのタイトル通り「多様性」を顕然とさせたかの感がある。
 なお、「ジェンダーフォーラム」は共同で企画した大学を一巡したことになり、本ジェンダーセンターとしては、今後ジェンダーフォーラムをどのように継承し発展させるかといった点も含め、タイはじめ海外研究機関とも研究交流のあり方について検討を重ねていきたい。

基調講演①大坪久子氏

基調講演②ジャッキー・スティール氏

第1分科会:田中洋美(情報コミュニケーション学部准教授)
 情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター主催の第1分科会では、二つのセッションを行った。両セッションともに登壇者の発表とその後の質疑応答ともに有意義な議論の機会を提供することができた。

 セッションA「21世紀において研究者として生きるー女性のアカデミック・キャリアにおける機会と障壁」では、パネルディスカッションを行い、研究者・大学教員のキャリア形成の現状について国際比較と男女共同参画の視点から検討した。日本、オランダ、ドイツ、アメリカ、タイといった異なる国・地域でアカデミックなバックグラウンドを持つ研究者らが自らの体験を踏まえつつ、2010年代の現在、研究者として生きるということにどのような問題があり、またいかなる対応が可能であるのかを議論した。
 平田佐智子氏(明治大学)は、日本のポストドクター問題について話題提供し、関連政策を整理するとともに、ポストドクターと呼ばれる若手研究者の多くが、所属機関において孤立している現状について紹介した。デアドリー・スネープ氏(デュースブルク・エッセン大学)は、オランダとドイツの大学で学んだ経験から、ドイツの大学において博士課程入学や院生対象の研究職を得る上での差別はなかったものの、「科学は男性のもの」という女性蔑視の風潮が、潜在的ジェンダーバイアス(implicit gender bias)として今もヨーロッパの大学文化に残存していることを指摘した。チェルシー・シーダー氏(明治大学)は、アメリカの大学では院生になると奨学金受給や教員スタッフとして教育経験を積むことができる等のメリットもあるものの、近年アメリカでも予算削減や任期制ポジションの増加が見られ、博士号取得後もアカデミックポストに就職できない人々が増えていると述べた。
 最後に、チョンプヌッ・パームプーンウィワット氏(シーナカリンウィロート大学)からは、大学教員の女性比率が50%を超えるタイの現状についてお話があった。タイでは24の公立大学のうち女性の学長をもつ大学が5つあり、大学教員に女性比率が50%を超えている(UNICEF2013年データによれば51%。なお日本の大学の本務教員に占める女性比率は18.2%。学校教員統計調査2007)。しかしながら、タイにおいても職格が上がるにつれて女性比率は減少する(助教までは半分以上、准教授では49.34%、教授は29.91%)。チョンプヌッ氏の所属大学では経済学の女性教授は3人であり、政治学ではひとりもいないという。以上のことから、タイの大学においてもガラスの天井は未だに存在することがわかった。
 以上のような各国の状況について確認しつつ、現状にどのように介入できるのかについても意見交換がなされた。とりわけ本セッションでは、個々の研究者にできることを中心に議論し、次のような提案がなされた。
 第一に、孤立しがちなキャリア形成の初期にある研究者や女性をはじめとする大学等における少数派の研究者たちが相互につながることである。例えば、平田氏は、同人誌『月刊ポスドク』を刊行し、孤立するポスドク研究員たちが決してひとりではないことを伝える活動を行っている。こうした氏の活動は当事者やかつてポスドクだった多くの研究者の共感を呼んでいる。またシーダー氏は、アメリカの大学において院生たちが自らの利益のために「組合」をつくり、大学側と団体交渉している現状を伝えるとともに、研究者同士が草の根レベルでネットワーキングし、情報共有や相互支援することの重要性を唱えた。
 第二に、少いながらも存在する女性教員を可視化することである。マイノリティにとっては同じ境遇のロールモデルの存在が大きな意味を持ちうる。スネープ氏は、自分の周りにいるシニアの女性教員の存在に励まされると語った。また育児と研究の両立に悩む一般参加者からは、先輩女性研究者の両立経験を聞く機会が欲しいとの要望が出されたことも付記したい。
 第三に、「スロースカラシップ」(slow scholarship)の提唱である。これは近年アメリカの研究者の間で生まれた考えで、キャリア形成における発表論文数重視といった業績中心主義への異議申し立ての意味がある。無理せず焦らず、情熱を失わずに研究を続け、また研究以外の面においても自分の人生を謳歌したいという素朴な欲求を表現する人々が出てきたことを示している。
 学術の世界は、歴史的に女性やマイノリティの参入が遅れ、男性が中心となって営み、作り上げてきた。本セッションを通して、そのような場で女性(およびその他の少数派の)研究者が活躍する上では障壁があることが再確認されたが、同時に、個々の研究者が自ら直面する問題とどう折り合いをつけていったらよいのか、いくつかの方法についても言語化することができた。

 続くセッションB「タイにおける女性のエンパワーメント」では、本センターが2013年から学術交流を続けているタイのシーナカリンウィロート大学のジェンダー研究者による研究発表が行われた。またUNDPバンコク支局のアナリストである山本由美子氏にコメンテイターとしてご登壇いただいた。
 チョンプヌッ・パームプーンウィワット氏、パウィーナ・レクトラクン氏の発表では、女性の労働参加率を地域別にコホート分析した結果が示された。日本と比較して最も興味深かったのは、近年(2014年データ)バンコク市内の女性労働がいわゆる「M字型曲線」を描くようになったということである。従来タイでは見られなかった新しい労働パターンが都市部に見られているわけである。両氏によれば、タイの都市部において中産階級が増加し、主婦が増えているとのことであった。これは、かつての高度経済成長時代の日本と似た状況がバンコクにおいて起きていることを意味する。
 ブイ・ティ・ミン・タム氏の発表では、教育、労働参加、政治参画等に関するOECD指標を用いてタイにおける女性の社会的・経済的・政治的地位について説明があった。タム氏の発表で興味深かったことは、労働参加、とりわけ管理職に占める女性比率が極めて高いこと、にもかかわらず議員や大臣に占める女性比率は決して高くないことである。日本は企業組織、議会等公的機関、ともに女性の参画が進んでいないため、両者を同じ水準で論じてしまいがちかもしれないが、両者の間には質的な違いがある可能性が示唆された。
 これらの発表について、コメンテイターの山本氏からは、タイのジェンダー問題について考える上で、地域間格差の問題が重要な意味を持つことが指摘された。経済発展は、一国の内部で均一な社会空間を生み出してはおらず、貧富の差をはじめとするさまざまな差異や格差を引き起こしている。言うまでもないが、ある社会の理解には、その社会が内に関わる多様性ないし差異への配慮が不可欠である。山本氏のコメントを通して、このことの重要性を改めて認識することとなった。

全体会

ブイ・ティ・ミン・タム氏

田中洋美氏

デアドリー・スネープ氏