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2019年度 開設10周年記念シンポジウム:パート1

2019年度 開設10周年記念シンポジウム:パート1(日本)

10th Anniversary Symposium of Gender Center "Diversity and Creativity in the 21st Century: New Directions in Science, Art, and Fashion Part 1. New Directions in Gender Studies: The Past Decade and the Future"

概要



10th Anniversary Symposium of Gender Center
"Diversity and Creativity in the 21st Century: New Directions in Science, Art, and Fashion
Part 1. New Directions in Gender Studies: The Past Decade and the Future"
(ジェンダーセンター10周年記念シンポジウム
 「21世紀の多様性と創造性——学術・アート・ファッションにおける新展開 パート1:ジェンダー研究の新展開——この10年と今後」)

Meiji University, Japan (開催地:日本・明治大学)
September 20, 2019 (開催日:2019年9月20日)

プログラム

【主催】明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター
【共催】明治大学大学院情報コミュニケーション研究科
【後援】明治大学国際連携本部
【協力】明治大学特定課題研究ユニットジェンダー・セクシュアリティ研究ネットワーク
【日時】2019年9月20日(金)13:00~18:15(開場12:30)
【会場】明治大学駿河台キャンパス グローバルフロント1階グローバルホール

13:00 開会,挨拶,趣旨説明
 大黒 岳彦(明治大学情報コミュニケーション学部長)
 須田 努(明治大学大学院情報コミュニケーション研究科長)
 田中 洋美(明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンター長)
13:15-15:30 オープニングセッション:日本の文脈と比較の視点
13:15-14:00 基調講演1
 「日本における近年のジェンダー研究の展開——非正規化と多様化の中で」
  …江原 由美子(横浜国立大学教授)
14:00-15:00 基調講演2
 「ジェンダー研究の新展開——フェミニズム,多様性,プロセス的インターセクショナリティ(New Directions in Gender Studies: Feminism, diversity and processual intersectionality)」
  …イルゼ・レンツ(独ルール大学ボーフム名誉教授)
15:00-15:30 質疑応答
 司会:田中 洋美(明治大学准教授)
15:30-15:45 休憩
15:45-18:15 パネルセッション: ジェンダー研究の新展開—各領域からみて(各20分+ディスカッション)
登壇者:
 「アメリカ研究・ジェンダー史」…兼子 歩(明治大学専任講師)
 「メディア・表現」…藤本 由香里(明治大学教授)
 「セクシュアリティ」…風間 孝(中京大学教授)
 「スポーツ・身体」…來田 享子(中京大学教授)
 「暴力・ハラスメント」…牟田 和恵(大阪大学教授)
 司会:高峰 修(明治大学教授)
 ※登壇順

21世紀の多様性と創造性——学術・アート・ファッションにおける新展開:総括

報 告:田中 洋美(明治大学情報コミュニケーション学部准教授)
 2019年秋,明治大学情報コミュニケーション学部ジェンダーセンターは設立10周年記念イベントとして国際シンポジウムを開催した。「21世紀の多様性と創造性——学術・アート・ファッションにおける新展開(Diversity and Creativity in the 21st Century: New Directions in Science, Art, and Fashion)」と題した本シンポジウムは,多様性に肯定的な意味を付与する時代における文化創造について学際的に論じるもので,以下に述べるように二部構成で開催した。
9月20日(金)に開催された第一部「パート1 ジェンダー研究の新展開——この10年と今後」においては,多様性に関する議論をリードしてきた学術領域であるジェンダー研究を取り上げ,近年の新たな研究動向を明らかにし,これまでの到達点と残る課題について議論した。ジェンダー研究を牽引してきた日独の研究者(江原由美子横浜国立大学教授,イルゼ・レンツ独ルール大学ボーフム名誉教授)による基調講演により,日本およびヨーロッパの近年の社会変動とそこにみられるジェンダーやそれと関わる差異の問題を確認すると共に新たなジェンダー分析の理論やアプローチが確認された。後半のパネルセッションでは,歴史,表象,セクシュアリティ,暴力,身体・スポーツの5つの領域を取り上げ,それぞれに関する最新の理論・実証研究の知見が紹介され,喫緊の課題を可視化すると共にその解決に資する研究のあり方について活発な議論がなされた。
11月14日(木)・15日(金)に開催された第二部「デジタル社会の多様性と創造性——アートとファッションの新展開」においては,多様化に肯定的な意味を付与する動きが社会のデジタル化と同時期に起きていることを踏まえ,領域横断的な越境的創造性がいかにして発揮され,新しいクリエイションが起きるのか,またそこに新たな技術がどのように関わっているのかについて議論が行われた。初日オープニングの基調講演では,創造的営みの実践者(アーティスト,音楽家の渋谷慶一郎氏)による斬新な芸術作品の紹介とそれら作品のコンセプトが提示されると共に,哲学者としてメディア論を専門とする研究者(大黒岳彦明治大学教授)が,メディア論的・技術論視点から美術の展開を振り返ると共に,アートの意義を示した。続く座談会では,キュレーター(四方幸子氏)に加わっていただき,越境的創造性が発揮される条件について議論が行われた。二日目は,アートとファッションに関するセッションが行われた。いずれにおいても研究者と実践者が登壇し,かつ文理融合の学際的な議論となった。
パート1,パート2どちらも1日につき100人以上を超える来場者があり,盛会であった。多様なデジタル社会においていかなる文化と価値を生み出すのか,という大きな問いについて学術的かつ実験的に論じる貴重な機会となった。

パート1 ジェンダー研究の新展開——この10年と今後:パネルセッション

報 告:高峰 修(明治大学政治経済学部教授)
2題の基調講演に続き,パネルセッション「ジェンダー研究の新展開—各領域からみた新展開」では5名の登壇者による報告があった。
兼子歩氏(明治大学政治経済学部専任講師)からは「アメリカ史/ジェンダー史の新潮流」と題し,1970年代以降に米国で盛んになった女性史研究からジェンダー史研究への発展について,そして近年のジェンダー史研究の重要な研究動向について報告があった。後者については2点あり,1点目は「インターセクショナル」な歴史研究,つまりジェンダーと人種など他の社会的要素が交錯することによって生じてきた諸問題を検討する歴史研究であり,2点目はアメリカ政治史にジェンダーを組み込む叙述である。これら2点の研究動向について,具体的な事例が示されながら説明があった。
藤本由香里氏(明治大学国際日本学部教授)は「表象・メディア」の視点から,特に少女マンガにみられるLGBTをめぐる表現に着目した報告があった。少女マンガにおいては1970年代初頭から既存のジェンダー秩序を問い直すような作品が発表されていたが,近年では現実とフィクションの懸け橋になるような作品が次々と生まれてきているという。さらに2000年代半ばからは,男性文化への女性文化の取入れが進んできたとの指摘もあった。
風間孝氏(中京大学国際教養学部教授)は日本における「セクシュアリティ」をめぐる動向について概観された。日本において男性同性愛者は1980年代半ばにエイズ危機の中で可視化されたが,その後も真剣な議論の対象にはならず,社会から排除され,あるいは国家にとっての脅威として捉えられていた。こうした風潮が変化するのは2010年代に入ってからであり,性的マイノリティは経済の領域では可処分所得を多く持つ消費者として注目され,政治の領域では現政権から包摂される存在へと変化した。しかし一方では自民党杉田衆議院議員による差別発言もあり,そうした動向の矛盾を「寛容な日本」という言説から分析し,さらにその「寛容」にも境界線があること等を指摘された。
來田享子氏(中京大学スポーツ科学部教授)からは「スポーツ・身体」領域における研究の動向について,2000年以前と以降の時期に分けて説明があった。スポーツにおける「性別」を<指標>と<境界>という2つの概念に整理し,それぞれの変化についての分析結果,国際オリンピック委員会のジェンダー平等政策の分析結果,オリンピック・パラリンピック関連データとGender Gap Indexを照らし合わせた分析結果等が紹介された。今後の提言としては,①スポーツ領域におけるジェンダー平等のための戦略を社会のジェンダー平等へとつなげる方法論,②既存の社会統計とジェンダー研究の成果の融合,の2点が示された。
牟田和恵氏(大阪大学大学院人間科学研究科教授)は「性暴力・ハラスメント:研究と運動の往還」と題して,過去25~30年間にわたる日本の性暴力およびハラスメント問題の展開を振り返った。このテーマは,ジェンダー研究の中でも特に研究が運動や実践と往還しつつ展開した分野でもある。1989年に登場した「セクハラ」概念の法制化はすみやかに進んだが,女性差別という観点は抜け落ちていた。2017年には刑法177条改正が実現し,MeToo運動が起こったが,2019年3月には性暴力無罪判決が相次いだ。このことは法曹界の性暴力への理解が進んでいないこと,性暴力を告発することに対する反動が未だ存在することを表わしている。最後にこうしたことから,セクハラや性暴力問題を根源的に解決するためには社会における「女性差別」自体の撤廃が不可欠である,という指摘があった。
2時間30分という限られた時間で5名の報告を設定したため,各報告に十分な時間を確保できなかったのは企画側の反省点である。しかしそうした条件の中で,各登壇者は各領域における現象や研究の動向,そして今後の課題を要領よくまとめてくださった。幅広いジェンダー研究の領域の話しをまとめて聞けるという点で,これまでの企画にはない楽しさを来場者に体験していただけたのではないだろうか。今回のパネルセッションが,今後の各領域における研究の発展につながることを期待したい。